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神戸地方裁判所 昭和22年(ワ)347号 判決

原告

八木幸吉

被告

内閣総理大臣

主文

原告の請求を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告は内閣総理大臣片山哲が昭和二十二年五月二日原告を公職追放覺書該当者と指定した処分の無効なることを確認せよとの判決を求める。

事実及び理由

原告は昭和二十二年四月二十日執行された参議院議員選挙に際して、公職適否資格の審査を受け同年三月二十九日、時の内閣総理大臣より公職からの追放者に該当しない旨の確認書の交付を受け、兵庫縣から地方選出議員として立候補し選挙開票の結果同月二十日四選挙会において当選人と決定せられ、これを承諾して参議院議員たる資格を得た。然るに同年五月二日、時の内閣総大臣片山哲は原告を公職追放覺書該当者と指定し、同月五日原告に対し内閣書記官長名義の電報理を以つて「関係筋の意向により貴下の資格は、先の非該当の決定を取消し、今囘該当者と決定した。」との通知をしたため、原告は参議院議員の資格と地位とを失うたものとされているのである。然し原告は右資格審査請求に際し提出した調査表に基き審査された結果、公職追放覺書非該当であるとの確認書の交付を受けているのであるから、これを取消し追放該当者との指定するには、(一)右調査表に記載されていない事由に基くか、(二)調査表に虚僞の記載があつたか(三)さもなければ調査表に事実をかくした記載があつたか、でなければならないのであるが、原告は右いづれの場合にも該当せぬのであるから、右追放該当者としての指定は昭和二十二年閣令内務省令第一号(昭和二十二年勅令第一号施行に関する件)第九條第三項に違背してなされた違法な行政処分であるばかりでなく、その指定の通知の方式も、その行政官廳である内閣総理大臣名義を以つてせず、前記のように、当時既に庭止された内閣書記官長名義を以つて簡略な電文によりなされた違法な形式によつたものであり、右いづれの点からするも前記の指定は無効である。」というにあつて、右は「内閣総理大臣が昭和二十二年勅令第一号(公職に関する就職禁止、退職等に関する勅令)に基き原告を公職よりの追放該当者と指定した処分を違法な行政行為として、その取消を求める趣旨の爭訟である」ことは明らかであるが、右勅令及その施行令である昭和二十二年閣令内務省令第一号等は、連合軍総司令官発日本政府宛昭和二十一年一月四日附覺書(公務從事に適せざる者の公職よりの除去に関する件)による指令の執行のために制定された命令であり、覺書該当指定者としての内閣総理大臣は、右覺書による指令に從い連合軍総司令官に対する直接の責任者として、その指令の趣旨を執行する機関であることは、右覺書の第二、八、九、十二乃至十七及十九項等に徴し推知しうるところであるから、内閣総理大臣が政府の一行政官廳として一般國内法規に從つて行う行政処分を違法としてその取消変更を求める爭訟とはその性質を異にし、本件は司法裁判所の裁判権に属しないものと解するのが相当であるから、不適法な訴であり、しかもその欠缺が補正できない場合に該当する。

よつて民事訴訟法第二百二條第八十九條を適用し主文の通り判決する。

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